写真の装置は、同じ模型飛行機好きの友人が手作りした「インシデンス・重心測定器」というむずかしい道具で、先日、我が家に届いた。
秋の佐渡の空を満喫して東京に帰ったその友人とは、滞在中、この道具の必要性について論じ合っていた。
帰る早々、彼はまるで火がついたかのようなすごい集中力で、この道具の「しくみ」に必要とされる具体的なデザインを形にし始め、各パーツが加わる度に写真が添付されたメールを、私宛に送り届けてきた。その都度、Skypeで意見を求められるのだが、彼の心眼が描き出す具体的なイメージを、私は見ることができず、何もアイデアを提供することができなかった。
彼は模型好きな器用人(ブリコルール)ではあるが、技術屋ではない。
もちろん、この道具を作るにも図面などは書かなかったという。彼の材料調達は、近所のホームセンターと自分の工作室に貯めたものだけ。特別に遠くから取り寄せたりはしない。加工に用いる道具についてもしかり、精度の高い穴開け作業ができるボール盤が壊れていたので、手持ちの電動ドリルを使い、肉抜きの穴やベアリングの入る穴開け加工まで済ませてしまう。
届いたこの道具こそ、グライダー好き(模型飛行機)にとって、工学的科学(エンジニアリング・サイエンス)の解析を可能にするデータを計測できる装置なのだ。
このような道具が必要な理由を説明しよう。
それには昨今の模型飛行機事情も起因しているのだが、めんどくさいことを嫌う凡人の習性も大きく影響している。
元来、模型飛行機を楽しむというのは、モデルをすべて自分で作り出すことだった。それが最近では、できあがったモデル(RTF:ready to flyの略)を買い、メカを積んで飛ばすだけの楽しみに変わってきた。
この現象を説明するうまい言葉が「現代文明を考える:芸術と技術」という本のレビューに書かれている。
「技術の進展がもたらす無際限な生産と消費への誘惑、その間で自分自身が望む価値を見極め、誘惑を続ける事象から自分をコントロールすること」
まさにこの表現につきるのだ。
自分が飛ばしているグライダーの正確なデータ(主翼や尾翼の取付角度/重心位置)を調べることなく、現場合わせで対応して飛ばしていくと、本来の性能を引き出すことができない。よく知らないで扱っているということは、消費への誘惑に負けた愚かな消費者でしかないとも言える。そのような悪習慣からの脱却を図る意味においても、インシデンス・重心測定器を使い、自分で機体のデータを調べることが重要なのだ。このような装置は幸いかな、製品化されていないため、自作するしかない。そこもハードルが高い理由のひとつだが、彼は形にしてしまったのだ。すごい情熱とエネルギーだと思った。
このエントリーを準備しているとき、ある本の存在を秋山氏のブログ「aki's STOCKTAKING」で知った。
それがこの本「技術屋の心眼」だ。
佐渡の図書館にあることがわかり、一気に読んだ!!
私が感動した友人の情熱の源には、ブリコルールとして培われた彼の心眼があったことを、この本で学ぶ。なので、いろいろ影響された文章であることをおことわりしておく。文中に出てきた「芸術と技術」という本も、著者つながりである。
楽しく興味をもてた内容の一部
・工学の知識(24p) ライト兄弟の飛行機開発の話
・ホイットカムの面積法則(72p) 超音速機の設計における問題解決の話
・研究のための模型(131p) 中世ヨーロッパにおける模型の起源
・模型の教育的な役割(169p) 機械のアルファベットの話
栗田さん、ごぶさたです。
難しそうな「インシデンス・重心測定器」なるものを理解していませんが、設計という行為が「グラフィカルな思考」にあるということが、このブリコラージュという行為にもあるというお話、面白く思いました。
最近のブログは、SNS におされてコメントする人も少なくなりましたが、amazon のアフリエイトの結果を見ると8人の方が本を購入しています。まだまだ、ブログの役割があるように思いました。
投稿情報: AKi | 2011-11-15 22:13
ホスピタル滞在中はお見舞いもせず、失礼いたしました。
いつも興味深い書籍の紹介、感謝します。
専門分化した技術者よりも、浮気なブリコルールの方がみごとな心眼を持っている場合があるようです。手をはじめとする身体センサー(五感)で感じまくって蓄積された経験値の重要性を、この歳でまた再認識しております。
白い紙の上を、秋山さんが手にしたPRESS MAN 0.9が走り、描かれるドローイングを久しぶりに見たくなりました。
寒くなってきました、お身体をご自愛ください。
投稿情報: 栗田 | 2011-11-16 22:48