人間と動物との関係性、それがペットと呼ばれるようになった愛玩動物ではなく、獲物を得るための狩の道具として利用されてきた動物に興味がある。その中でも、鷲を使う鷹匠の放鷹術とその歴史について書かれた本を、たてつづけに3冊読んだ。
最初の1冊目「はぐれ鷹」については、すでに別のブログで紹介してあるので、このエントリーでは、その後に読んだ2冊の本「天皇の鷹匠」と「鷹匠の技とこころ」について紹介したい。
■天皇の鷹匠
著者:花見薫
単行本 : 四六判 216ページ
出版社:草思社
ISBN:978-4-7942-1178-1
価格:1,600円
聞き書きでまとめられた「天皇の鷹匠」の著者である花見薫氏と、「鷹匠の技とこころ」を書いた大塚紀子氏は、共に諏訪流放鷹術を継承する師弟関係にあった。
花見薫氏は諏訪流十六代継承者であり、50年間、宮内省鷹匠として皇室の鷹を預かってきた人物。
織田信長から徳川幕府まで続いた鷹狩りは、明治維新の古技保存で宮内省扱いとなり、その後、宮内府から宮内庁と皇室のためだけに継続してきた。しかし、1970年代に中断、その後、動物愛護などの関係もあり、再開されることなく終わってしまった。
現在でも宮内庁扱いで継続しているのは鵜匠だけである。
この本は、ついているタイトルに圧倒されるが、それは出版社の思惑が先行しただけのこと。明治、大正、昭和を生きた最後のお抱え鷹匠が語った、鷹との暮らしと伝統がわかる物語なのだ。
宮内庁で総理府技官としての役目を勤め上げた花見薫氏は、1983年に八王子出身の田籠善治郎氏らが設立した「日本放鷹協会」の初代会長に就任して、民間レベルでの放鷹活動を積極的に始める。
田籠善治郎氏はその後、諏訪流十七代継承者となり、大塚紀子氏の師匠としての役目も含め、後継者の育成に努めている。
個人的には、鷹匠と鷹、人間と鳥とのダイレクトな関係が理解できる内容を期待していた。だが、すでに長い時間をかけて培われてきた「流派」や「放鷹術」の歴史は重く、完成された「型」や「形式」を伝承するスタイルに隠れて、わかりやすく人間味のある鷹とのコミュニケーションはあまり紹介されていない。
■鷹匠の技とこころ
鷹狩文化と諏訪流放鷹術
著者:大塚 紀子
単行本 : 四六判 216ページ
出版社:白水社
ISBN:978-4-560-08169-3
価格:2,200円
「学者で、鷹匠の認定試験に合格している女性が書いた本」ということにまず驚かされる。しかし、古代に大陸から渡来した鷹術を「流派」にまとめあげた最初の人物も「呉竹」という女性だったことをこの本で知った。
この本こそ、新しい放鷹の始まりを示す未来へのガイダンスと言っていいだろう。知的で簡潔な文章により、歴史や道具、調教の方法、海外鷹狩文化、その未来について解説されている。男社会が煮詰めすぎた文化に、再度、女性が新たな風を吹き込んでいるような印象をうけた。だが、一般的ではない少しインテリな言葉使い・・・そう、専門用語が多いということこそ、伝統そのもの。時代に沿った新しい放鷹は生まれるだろうか。
最近では、鳥獣保護法やワシントン条約の関係で、ブリーダーが人工的に増やした鷹ばかり。最初から人間との関係をインプリントされており、恐怖心が少なく、社会性を理解する可能性大のハリスホーク(モモアカノスリ)などが多く飼われるようになったそうだ。フレンドリーな鷹とのコミュニケーションも楽しいだろうが、
古くから生息する野生の鷹と人間との関係性を求めるのは難しい時代になったということだろうか。だからこそ、その原点にあった「野生」を知りたいということでもあるのだが・・・。
■目 次
まえがき
第一章 日本の放鷹史
第一節 古代貴族文化と戦国武将
誇り高き鷹/日本の鷹狩の起源/桓武天皇と鷹狩文化の創成/
騎馬と鷹犬/野行幸と「鷹の家」/鷹飼渡という放鷹実演/
武士の台頭と鷹術の危機/「軍計の諸事鷹の道より出づる」
第二節 鷹狩文化の発展
流派伝承にみる諏訪流/諏訪神社の神事/「諏訪の勘文」と農耕文化/
諸派の形成/家康から吉宗へ/鷹狩の隆盛と山の管理/極まる鷹匠の技/
明治から戦前の鷹狩/現在の諏訪流放鷹術
第二章 鷹の調教
第一節 鷹を飼うまえの準備
はじめに/鷹の選択/調教という考え方/据える準備
第二節 鷹道具
鷹部屋/鷹匠道具、鷹の装具
第三節 調教の流れ
はじめに/「馴らし」──夜据/鷹匠の極意、その一/「仕込」──昼据
第三章 鷹と野に出る
第一節 狩りのまえの調教
「使う」──野据
第二節 狩場の仕込み
野仕込/様々な野仕込/鷹匠の極意、そのニ
第三節 ハヤブサによる鷹狩
第四章 鷹狩文化の未来
第一節 アラブの鷹狩
伝統に生きる/アラブの放鷹術の特徴
第二節 諏訪流放鷹術と鷹匠のこころ
鷹匠の心掛け/鷹匠の精神性
第三節 伝統を守る
鷹狩文化の復興を願って/文化を継承するということ
参考文献
あとがき
結局、最初に読んでいた「はぐれ鷹」が自分の欲求に一番合っていた内容の本かもしれないと思う。この本は直木賞作家の熊谷達也氏が小説として書いたものだが、モデルとなった松原英俊氏という孤高な鷹匠がいる。彼は角鷹(くまたか)という神経質で大型の鷹を操る唯一の鷹匠なのだ。彼のHP「鷹匠:FALCONER」で、この本の存在を知ったわけだが、実際に鷹匠として暮らしてきた松原英俊氏のアウトローぶりには驚かされる。ホームページには本人が執筆した文章がいろいろ掲載されているので一読してみてほしい。
■はぐれ鷹
著者:熊谷達也
単行本:359ページ
出版社:文藝春秋 (2007/10)
ISBN-10: 4163264108
ISBN-13: 978-4163264103
価格: 1,700円
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