一年半かけて開発してきたカモメ型グライダーが飛びました。
連休明けから2週間、佐渡素浜海岸でソアリングテストを敢行。2日目、風速1.5~2.5m/sという微風条件で高度維持滑空を成功。 その後日、風速5m/sで上昇するソアリングにも成功したカモメソアラー Gull Slowperは、スパン1メートル、重さ120gに満たないインドア機並みの軽量機です。
プロジェクトメンバーは、当初、6名が手を挙げたのですが、成功まで中心となって開発をリードしてきたのは、元YSFCメンバーである梶山氏(左)と栗田(右)の2名。
ABSをバキュームした胴体の製作は、デザインを栗田、木型/成形を元YSFCの顧問である原田氏が担当。これまでの経緯は、佐渡のブログに詳細を掲載してあるので、興味のあるかたは御覧ください。
佐渡に住むようになって、日々、目にすることができるカモメやトンビたちのみごとな滑空/帆翔に魅了され、鳥型グライダーの中でもガル翼であるカモメのデザインに興味を抱きました。
海外フォーラム(RCGroups、RC-Network、ModelbouwForum)や個人サイトなどからこれまでに製作されたカモメ型グライダーの情報を得ることはできたのですが、みつけることができた機体は重い(450g~1kg)モデルばかり。南アやカリフォルニアなど、風の条件の良い海岸スロープで、強風に舞うカモメ型グライダーの帆翔に魅力を感じることはありませんでした。残念なのは、透明な垂直安定板を取付けて、安定を確保している機体が多かったことです。
我々が目標にしたのは、日本海に面した佐渡に生息するカモメ類(ユリカモメ、ウミネコ、カモメ、セグロカモメ)をスケール化し、風速3m/s前後の条件(年間を通じ最多の風速日)で滑空/帆翔できるカモメ型グライダーの開発でした。
人間が考えだした尾翼のあるグライダーとは違い、カモメには短い尾羽根しかありません。もちろん、垂直尾翼など付いているわけもなく、機体の安定性確保と、どのようにコントロールするかが我々にも大きな課題でした。
栗田自身の機体開発は改造翼も含め、これまでに5機(翼)。
ただの板翼だった1号機(スパン700mm/重さ90g未満)が不安定ながら風速6m/sで飛んでしまったのが始まり。
このときすでに、無尾翼に近いカモメ型ガル翼の機体が、軽いにも関わらず、風に強い(風見効果大)印象を受けたのです。
5月、梶山氏来島の4日前に新作のユリカモメ(Black-headed Gull スパン1000mm/重さ160g)が風速5~6m/sで3分以上のソアリングに成功。
■Black-headed Gull
・上下3mmデプロン
基本翼型:RG 8(ルート側)/ NACA0012(翼端側)
・翼中央と翼端で違う翼型を使用する
・風圧中心の移動が少ない翼型の採用:対称翼
・外翼→翼端までの捻り下げ(ウォッシュアウト)
この機体よりも軽く仕上がっている梶山機の初飛行(スロープでは)に大きな期待が膨らみました。
インドアでもオリジナルデザインのモデルを数多く製作してきた梶山氏。
この1年半で10機(翼)以上の試作を繰り返し、ガル翼に潜む個性的な空力特性の特徴を栗田と共同で発見してきました。
東京郊外在住の梶山氏が生活環境下で可能なのは、手投げによる滑空テスト、それにプッシャーモグラ仕様の胴体に翼を取り付け、高度を稼いでから行う滑空テストがメインです。その不足を補うべく行ってきたのが、年に2回の佐渡遠征。海岸スロープでのリフトや向かい風を使ったソアリングテストは、もっぱら素浜海岸を中心に行ってきました。
今回、成功した翼はB、E、F、Gの4翼。
それぞれの翼にピュア用とモグラ用の胴体を使い分けて取り付け、テスト飛行しました。B翼(880mm)以外はスパン1000mmで、重さは120g未満です。
■B翼
内翼/外翼接合:トーアウト
6mmデプロン・シングルサーフェス 基本翼型:NACA A=0.0 M.Line
■E翼
内翼/外翼接合:ルートと平行
上下3mmデプロン 基本翼型:AG38
■F翼
内翼/外翼接合:トーアウト
上下3mmデプロン 基本翼型:AG38
■G翼
内翼/外翼接合:トーイン
上下3mmデプロン/下面のみ前縁側40% 基本翼型:ジェデルスキー断面
■胴体(上:ピュア用/下:モグラ用)
微風(風速1.0〜2.5m/s)から強風(風速3.0〜5.0m/s)まで、滑空/帆翔に成功したムービーを時系列順に御覧ください。
5月16日 E-wing 梶山撮影/パイロット:佐藤
5月16日 E-wing 梶山撮影/パイロット:梶山
5月17日 E-wing+Pusher 栗田撮影/パイロット:梶山
5月20日 Black-headed Gull 栗田撮影/パイロット:梶山
5月20日 E-wing 梶山撮影/パイロット:佐藤
5月20日 E-wing 4m/s 梶山撮影/パイロット:梶山
5月20日 B-wing 栗田撮影/パイロット:梶山
5月25日 G-wing+Pusher 栗田撮影/パイロット:梶山
5月25日 G-wing 栗田撮影/パイロット:梶山
5月25日 G-wing 栗田撮影/パイロット:梶山
■これまでに試してきたスペック
・内翼の前進角
・外翼の後退角:後退角の上反角効果
・ガル翼の内翼/外翼のスパン比率
・ガル翼の上反角、下反角
・方向安定性:内外翼比、上下反角、後退角
・翼型
栗田カモメ:板翼、クラークY、RG 8、NACA0012
梶山カモメABCD翼:KFmキャンバー翼(オリジナル)、NACA A=0.0 M.Line
梶山カモメEFG翼:AG38、ジェデルスキー断面
・スパン700~1000mmでの翼弦長(110, 115, 120, 130, 145, 150, 180mm)
・動翼用サーボ:1.7g、1.9g、3.5g、5.7g
■今回の成功から見えてきたこと
世界的にも、このように軽量なカモメ型ガル翼グライダーを製作し、微風での滑空/帆翔に成功された例を知りません。
バルサ素材やシャーレタイプのグライダーとは違い、デプロンやEPPなどの発泡素材を使った自作機は、改造や修正が簡単に行えるため、アウトドアのスロープでも、現場で解ったテスト結果をその場で反映させた改造ができます。
2001年からYSFC(横田スローフライヤークラブ)で楽しんできた小型軽量なインドア機製作のノウハウが、このカモメソアラー Gull Slowperにも引き継がれたことにより、今回の成功に繋がったのだと実感しています。F3Pのインドアアクロ機と同じような重さの機体が、5m/sの向かい風に滑空しつづける姿は、最初は夢を見ているように不可思議な体験でした。
無尾翼機とも違う空力特性をもつ低速のガル翼グライダーの誕生は、まだ新ジャンルのドアが開いたばかり。その先に、どんな驚きが潜んでいるのかは、まだ未知数です。
低レイノルズ数域では、これまで信じられてきた翼型理論が通用しないこともあることを、この1年半で体験しました。数年後にはプラズマアクチュエータの登場で空力形状のデザインも大きく変わるかもしれないという、別な可能性をもったドアが開きそうですが・・・・。まだ多くの可能性を持っているであろう「バイオ・インスピレーション」による謎解きで、ガル翼の素晴らしさを追求していきたいと思います。
コメント